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学会発表のご報告:培養室からの最新情報(日本IVF学会・東北生殖医学会)

皆さま、こんにちは。
培養室長の山田健市です。

当院では10月に、日本IVF学会と東北生殖医学会にて研究発表を行いました。
培養室の研究成果と、患者様にお伝えしたい情報をご報告いたします。

1.日本IVF学会:PRP療法とPGT-Aの結果に関する検討
当院では、卵巣機能の低下にお悩みの患者様に対し、ご自身の血液から作った多血小板血漿(PRP)を卵巣に注入する「PRP療法」を行っています(※自費診療)。
このたび、当院でPRP療法を受けられた患者様のデータを解析し、「PRPがPGT-A(着床前検査)の結果にどう影響するか」を調査しました。

【調査の背景】
PRP療法は、成長因子によって卵巣を活性化させることが期待されています。特に、PGT-A(染色体の検査)の結果がどのように変化するか、つまり「卵の質」の改善につながるのかを調べました。

【分かったこと:質の改善の可能性】
今回の研究では、PRP後に採卵数や胚盤胞になる確率そのものが劇的に増えるわけではありませんでした。しかし、PGT-Aの結果を見ると、以下のような変化が見られました。
移植に適さない胚(C判定): 減少しました(91.7% → 79.8%)
移植できる胚(A・B判定): 約2.4倍に増加しました(8.3% → 20.2%)
この結果は、PRP療法が「染色体が正常な、移植可能な胚に出会える確率を高める」可能性を示唆しています。これまでPGT-Aを行ってもなかなか移植可能な胚が得られなかった方にとって、PRP療法は新たな選択肢の一つとなり得るかもしれません。

【最も重要な注意点】
このデータは、あくまで当院での少数データ解析の結果であり、全ての方に効果を保証するものではありません。PRP療法は保険適用外であり、その有効性や安全性については、今後のさらなる研究が必要です。

 

2.東北生殖医学会:保険適用後の胚移植方法と多胎率の推移
2022年4月から不妊治療が保険適用となり、患者様が治療を受けやすくなりました。一方で、保険診療には「胚移植の回数制限」というルールがあります。回数が限られてくる中で、「一度に2個の胚を戻して確率を上げたい(二個胚移植)」というご希望を聞く機会が増えてきました。そこで当院では、保険適用後に胚移植方法がどう変化したか、そして「双子などの多胎妊娠」のリスクがどう推移しているかを調査しました。

【調査で見えてきた「最近の傾向」】
保険適用が始まってすぐは、二個胚移植(DBT)を選ぶ方はむしろ減少傾向でしたが、年を追うごとに、二個胚移植を選ぶ割合が増加傾向にあります。
二個胚移植の選択率: 9.3%(2022年)→ 17.3%(2025年)
保険の残り回数を考慮し、二個胚移植を選択されるケースが増えていることが推測されます。

【気をつけたい「多胎率」の急上昇】
直近の2025年データ(発表時)では、二個胚移植による妊娠率は40.3%という結果でしたが、同時に多胎率も32.4%と高い数値を示しました。

【お伝えしたいこと】
多胎妊娠は、母体への負担やお子さんの早産リスクなど、単胎妊娠(ひとり)に比べてリスクが格段に高まります。当院のデータからも、二個胚移植は多胎のリスクを高めることが再確認されました。保険の回数だけでなく、患者様の年齢や過去の治療歴、そして何よりお母さんと赤ちゃんの安全を最優先に考えた「最適な移植プラン」を医師と共に立てることが重要です。胚移植個数に迷われている方は、遠慮なく医師やスタッフにご相談ください。

【重要】ブログ記事に関するご案内(免責事項・発信者)
本記事は、当院の管理胚培養士である培養室長が、学会発表の内容を患者様への情報提供を目的としてまとめたものです。

【免責事項】
本情報は、あくまで当院の研究結果と一般的な注意喚起に基づいています。具体的な治療方針や適応については、必ず担当医師にご相談ください。本情報が医学的な診断や治療方針の決定に代わるものではありません。